Cold Phantom [後編]
声をかける間も無く犬塚の方からこちらに気が付いたようだ。

「お前も相変わらずだな。」

「相変わらずって?」

「考え事だよ、してるんだろ?」

そう言って返すと、犬塚は少し視線を外し「うーん」と返答ともつかない声をあげた。

しばらくして、犬塚はこちらに視線を戻した。

「考え事って訳じゃなくて…昔の事を思い出してたんだよ。」

「昔の事?」

「そう、姫納先輩をみてると、思い出す子が一人いてね。」

「先輩に似てる奴が昔にいたって事か?」

「似てる…うん、そうだね。」

「?」

犬塚の言葉に俺は何となくひっかかる物を感じた。

普段はアホっぽくて明るい犬塚にしては、何だかはっきりしない返答だったのがその最たる理由だろうか。

「私ね、昔その子に酷い事をしてた。先輩を見ていると、その時の事を思い出しちゃうんだ。」

「それでいつも…ぼーっとしてんのか?」

「私自身、したくてぼーっとしてる訳じゃないけどさ。その子の事を考えるとぼーっとしちゃうんだろうな。」
< 119 / 137 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop