Cold Phantom [後編]
時間も大分経ち、そろそろ9時になろうとしていた。
アパートの駐車スペースに置いてあった病院の車がエンジンを暖め始める。
車の窓から顔を覗かせた医師はこちらに向かって一言言った。
「本当なら、このまま病院に連れていきたいところなんですが…。」
「連れていきたいって…連れていかないの?」
マリアさんが不思議そうな表情でその医師にそう言うと、医師は苦笑いを浮かべた。
「祥子ちゃんはどうやら自分の事が苦手みたいなんで、それに祥子ちゃんは自分で決めた生き方を今は生きている。そのおかげで病院にいた頃とは違って随分明るくなりました。そう考えたら、あの中庭のある病院に連れていくよりもずっと今のままの方が良いと思います。」
医師はそう言って小さな笑顔を見せた。
すると、ふと何かを思い出したようにその医師は自分の鞄を漁り何かを取り出した。
「そう言えば、そこの男の子とは初めて会うんだったかな。名刺を渡しておくよ。」
そう言って俺にその名刺を差し出した。
「長池…幸人(ながいけゆきと)、さん?」