赤い瞳の迷い猫
それ程までに冷え切っていた。
身体も。…ココロも。
「一夏、こんばんは」
ふと、声がした。
自分以外住んでいない、この家から。
だけれど、聞いたことのある声には違いなかった。
『…なんでお前がここにいるんだよ』
「会いたかったから」
即答だった。
一夏自身、若干嫌な顔をしていたのにそれを覆すような笑顔で彼は言った。
『夕緋、俺は会いたくなかった』
「知ってる」
彼、夕緋と友達として付き合っているが時々、苛立たしい。
というか、面倒くさい。
優しいくせに、変にしつこいところが。
優しそうなその口調も、逆に嘘くさい気もする。
そんな夕緋には幾分歳の離れた双子の弟と妹、優しい母親がいる。
夕緋の家に行くと、温かく俺を迎え入れてくれた。
だけど、その温かさが俺にはつらかった。