どこか遠くへ【001】
生憎次の日曜は朝から雨で、晴彦の部屋には少し不機嫌そうな顔の秀一がいる。
よほど退屈なのか、ベッドの上に乗り上げては晴彦の枕を両端から掴んで引っ張っては元に戻し、そのまま枕を抱えて寝転んでしまった。
可哀相に、と思う。
晴彦自身は別に、遠出やどうこうよりもこういう風にだらだらと過ごす休日の方が好きで、今日晴れようと雨が降ろうとそれほど気にもならなかったのだけれど、秀一は意気込んでいた分やはり少し、悲しかったらしい。
雨の音は単調で、カーテンを開けていても部屋の中は薄暗い。
水の中にいるみたいだ。
ぼんやりしているうちに、秀一は丸まったまま眠ってしまったらしい。
持ってきた鞄の中には、彼の母親が作ったらしい弁当の箱と水筒、それからコンビニエンスストアのビニール袋が入っている。
中を覗いてみると、まるで遠足のおやつみたいなお菓子がたくさん入っていた。
「晴れるといいね」
教室で、机の上に足を組んで座っていた秀一の嬉しそうな顔を思い出す。
こんなに楽しみにしていたのに、天候はまったく意地悪だ。
「何しに行くの?」
秀一があんまり嬉しそうだったので、晴彦は少し呆れてそう聞いた。
すると秀一は、悪びれもせずに答えたのだ。
「遠足」
「…遠足?」
「そ、お弁当もって」
かたんかたん、と身体を使って机を揺らしていた。
そんなに暴れると後ろに倒れるぞ、と思ったけれど、秀一はそう言えばそんな失態を見せる事はない。
だからいつも、ちょっとだけ羨ましいと思う。
「…遠足かあ」
「あ、別に」
晴彦の声は秀一の耳に、思ったよりも憂鬱そうに響いたらしい。
秀一は机から降りると、慌てて晴彦の顔を覗きこんだ。
「遠足じゃなくてもいいんだけど」
「…じゃあ」
「え?」
「絵でも描こうかな、久し振りに」
最近テストやら行事やらで、好きな絵もあんまり描いていない。
思い出すと突然、秀一の『遠足』について行きたい気分でいっぱいになった。
「いいじゃん、俺が遠足で晴彦が写生大会」
「大会?俺一人だけじゃんか」
「いいの。俺だって一人で遠足だもん」
よほど退屈なのか、ベッドの上に乗り上げては晴彦の枕を両端から掴んで引っ張っては元に戻し、そのまま枕を抱えて寝転んでしまった。
可哀相に、と思う。
晴彦自身は別に、遠出やどうこうよりもこういう風にだらだらと過ごす休日の方が好きで、今日晴れようと雨が降ろうとそれほど気にもならなかったのだけれど、秀一は意気込んでいた分やはり少し、悲しかったらしい。
雨の音は単調で、カーテンを開けていても部屋の中は薄暗い。
水の中にいるみたいだ。
ぼんやりしているうちに、秀一は丸まったまま眠ってしまったらしい。
持ってきた鞄の中には、彼の母親が作ったらしい弁当の箱と水筒、それからコンビニエンスストアのビニール袋が入っている。
中を覗いてみると、まるで遠足のおやつみたいなお菓子がたくさん入っていた。
「晴れるといいね」
教室で、机の上に足を組んで座っていた秀一の嬉しそうな顔を思い出す。
こんなに楽しみにしていたのに、天候はまったく意地悪だ。
「何しに行くの?」
秀一があんまり嬉しそうだったので、晴彦は少し呆れてそう聞いた。
すると秀一は、悪びれもせずに答えたのだ。
「遠足」
「…遠足?」
「そ、お弁当もって」
かたんかたん、と身体を使って机を揺らしていた。
そんなに暴れると後ろに倒れるぞ、と思ったけれど、秀一はそう言えばそんな失態を見せる事はない。
だからいつも、ちょっとだけ羨ましいと思う。
「…遠足かあ」
「あ、別に」
晴彦の声は秀一の耳に、思ったよりも憂鬱そうに響いたらしい。
秀一は机から降りると、慌てて晴彦の顔を覗きこんだ。
「遠足じゃなくてもいいんだけど」
「…じゃあ」
「え?」
「絵でも描こうかな、久し振りに」
最近テストやら行事やらで、好きな絵もあんまり描いていない。
思い出すと突然、秀一の『遠足』について行きたい気分でいっぱいになった。
「いいじゃん、俺が遠足で晴彦が写生大会」
「大会?俺一人だけじゃんか」
「いいの。俺だって一人で遠足だもん」