時空の森と悪戯な風

学生の頃、アタシは智治と付き合っていた。



大人になってからの付き合い方とは違い、淡くピュアな恋。



一緒に手を繋いで学校から帰ったり、彼の部活の試合の応援に行ったり…



夏祭りには浴衣着て夜店をまわったりした。



今みたいに、素敵なお店で食事をしたり、ドライブしたりなんて無かったけど、それでも二人で過ごす時間は、とても幸せだった。



付き合って半年を過ぎた頃、智治の家庭の事情で、離れた所に引っ越すと言われ、お互い好きな気持ちのまま別れる事になった。



それでも毎日メールをして“いつか中間地点で待ち合わせして会おうね”と話していた。



そんなある日、新聞に智治が載っていた。

住宅火災で逃げ遅れた犠牲者3人のうちの1人だと。



信じられなかった。

だから葬儀にも行かなかった。





アタシの中には、まだ智治がいる。

まだ心の整理が出来ていない。



圭介の事は好きだけど、このままじゃ結婚出来ない。



圭介に申し訳ない。

智治にも申し訳ない。



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