時空の森と悪戯な風
周りは薄暗くなっていた。
早く森を出なくちゃならない。
「怖いなぁ…」
出口に向かって小走りした。
すると前の方から圭介が走ってきた。
「どうしたの?!」
「駐車場見たら弥生の車があったから、もしかしてと思ったんだ」
「そうだったんだ、ありがとう。暗くなってきたから、少し怖かったんだ」
手を繋ぐこともなく、ただ圭介と並んで森を出た。
「圭介、ちょっと話があるんだけど…」
「いいけど、弥生の家に戻ってからにするか?それとも、ここで話すか?」
「じゃ、ここで」
圭介の車に乗って話をする事にした。
「会いたい人に会えたのか?」
タバコに火を点け、煙を吐きながら聞いてきた。
「会えたよ」
森を見ながら答えた。
「良かったな…で、話って?」
実は…と前置きしてから圭介の方を向いて
「明日、アタシと一緒に来て欲しい所があるの」
と言った。
「明日か…分かった。時間は?」
「お昼過ぎからでいい?」
「うん。で、どこに行くんだ?」
「お墓参り」
“誰の”とは言わなかった。
圭介は多分、父のお墓参りだと思ってるだろう。
アタシの口から智治の事をちゃんと話した事もないのに“元カレに呼ばれた”なんて言える筈がなかった。