時空の森と悪戯な風
その桜の木は、通路の真ん中にあった。
この木は、天の橋墓園のシンボルのような木なので、ここに墓がある人は、大抵が知っていた。
入口側を背に、桜の木の左奥に行く。
「…あった…」
花を手向け、ただジッと墓を見つめるアタシに、圭介は訊ねた。
「なぁ“木村家”って?弥生の知り合い?」
少し間を開けてから
「横に…故人の名前が書いてるでしょ…“智治 17才”って…」
「あるよ。今から10年近く前に亡くなった人みたいだね」
会話が途切れた。
「弥生?」
ポロポロ涙を流す姿を見て圭介は驚いた。
「何で泣いてるんだよ…」
アタシは唇を噛み締め、声を殺して泣いた。
『ごめんなさい、智治ごめんなさい…』
心の中で何度も謝った。
「弥生どうしたんだよ?何で泣いてるんだよ?答えてくれなきゃ分かんないだろ」
「圭介…ここはね…“智治”は…アタシの亡くなった彼なの…」
墓前にしゃがみこみ泣くアタシを見て
「あの写真の人なんだ…」
そう言ったきり、圭介は何も話さなくなった。