時空の森と悪戯な風
「圭介…聞いて…」
そう言ってから、アタシは今回の事を話した。
「昨日、圭介と噂の森で会ったでしょ?アタシ、智治と会ってきたの。その時に言われたの“圭介と一緒に来て欲しい”って」
「そうか…」
「彼の存在を、ずっと言えなかった。言っちゃダメな気がしていた。でも、前に圭介がアタシの小箱を見せてって言ったでしょ?もう隠せないと思って…」
暫く沈黙が続いた。
お線香の煙が、あまり揺らぐ事もなく、ほとんど真っ直ぐ上がるくらい、珍しく風がなかった。
夕陽が周りをオレンジ色に染めている。
「なぁ…弥生」
「…なに…?」
「俺、彼が羨ましいよ。死んでから10年近く経っても、弥生の心の大部分を彼が占めていたんだよ。弥生の中では智治って人は“元カレ”じゃなく“今カレ”なんだ」
何も言えなかった。
整理がついてなかった部分をズバリ言われた気がした。
圭介は触れる事が出来る彼だけど、智治は触れる事が出来ない彼なのだから。