時空の森と悪戯な風
帰りの車の中は静まり返っていた。
父のお墓参りに、身内以外の人と一緒に行ったのは初めてだった。
智治の事を他の人に話したのも、圭介の前で、あんなに泣いたのも初めてだった。
「弥生…ちょっと寄り道していいか?」
「いいよ」
そこは海浜公園だった。
陽もすっかり暮れてしまい、駐車場にはアタシ達しかいなかった。
「弥生…俺、弥生のお父さんと噂の森で会った話したか?」
「会った事だけ聞いたよ」
「そうか…実は俺、夢でお父さんに呼ばれたんだよ。噂の森に来てくれって」
呼ばれた?
圭介が自分から森に行ったんじゃないの?
「お前と一緒にいても、何か上手くいかない時期があって…それにプロポーズしても返事もないままだったから、もうダメかもって思ってたんだ。その日あたりから夢に出てきて、森に来てくれって言われてたのさ」
「夢に父さんが出たとしても、よく噂の森まで行ったね。その夢を信じたの?」
「何度も同じ夢だったからな。まぁ、そこまで言うなら、その噂の森まで行きますって伝えて、朝早くに行ったのさ。そしたら噂通り風が吹いて、弥生のお父さんが現れたんだよ。“弥生は迷ってる。もう少し待ってくれないか”そう言われてさ」
「よく信じたね。アタシなら信じられないけど…」
「俺も信じられなかった。そしたら“弥生が大事にしてる木製の小箱がある。それを見れば分かる”って」
それでか…
突然、小箱を見せてって言ったのは。
「男の写真が出てきてムカついたけど…今日で全てが分かったよ」
アタシは圭介に話した事で、心の中の“つっかえ”が取れた。
圭介とお墓に行った事で、智治との約束を守れた。
でも…
この事で、アタシは圭介を傷付けてしまった。
「弥生、話してくれてありがとな」
優しく頭を撫でてくれた圭介の手から、少しだけ寂しさを感じた。