時空の森と悪戯な風
その ー 死 ー
次の日、アタシは噂の森の大木の前で、智治と会っていた。
『昨日、来てくれてありがとう。優しそうな彼だね』
「うん…」
『弥生…ごめんね。昨日あの話を聞いて、弥生の辛かった気持ちが分かったよ』
ただ頷くしか出来なかった。
『弥生が謝る事はないんだよ。謝らなきゃならないのは俺だから』
「アタシは智治の葬儀にも行かなかったんだよ…」
『昨日、言ってただろ?俺が死んだ事を認めたくなかったって』
「それに、智治がいるのに圭介と付き合ったのよ」
智治は首を横に振った。
『いや…実在の俺は、もういないんだから…』
「でも…」
『弥生…俺は弥生の側にいても、何も出来ないんだよ。手を差し伸べる事も、抱き締める事も、キスする事も…
お前が、どんなに悲しんでいても、俺はどうする事も出来ないんだよ…』
涙が次々と溢れ落ちた。
智治がアタシの涙を拭おうと、手を伸ばした。
でも、触れられた感じは全く無かった。
『ね…こんな事も出来ないんだよ…』
アタシの手は、智治の大きな手を握ろうとしてるのに、空気を掴むばかりだった。
「あぁ…何でよぉ…」
泣きながら、必死になって智治に触れようとするが、何も感触はなかった。
『弥生…ごめんな…弥生…』
森にアタシの声が響いた。
「どうして死んじゃったのよ!アタシも智治の所に連れてってよ…!」
光の中の智治は、涙を流しながら静かに言った。
『出来るわけ無いだろ…これが運命なんだ…』