時空の森と悪戯な風
「智治、アタシは離れたくなかった。あの頃、冗談で智治が言った言葉を…“一緒に暮らそう”って言葉を本当に実現してたら、こんな結末にならなかったのかな…?」
『わからない。そのまま付き合っていたのかも…お互い生きていたのかさえも…』
そうだよね。
全ては想像だもん。
『弥生、お前には絶対に幸せになって欲しい』
狡いよ。
アタシはアナタと幸せになりたかった…
『俺は、ずっと見守ってる。弥生が幸せになる事が、俺の幸せだから』
木の葉や枝が騒ぎ出し、もう時間がない事を知らせていた。
『弥生、大好きだよ。会えて、話が出来て本当に嬉しかった』
「アタシもだよ…」
智治を包む光が、アタシを包み込んだ。
『弥生…愛してる…』
腕を大きく広げ、アタシを抱き締める智治の体は、アタシの体をすり抜け、そのまま風と共に、大木の先端まで昇り、弾けるように消えた。
空から桜の花びらが、ハラハラ降ってきた。
二人で見た公園の桜。
そして、智治が眠る墓園の桜。
桜は、アタシと智治の思い出の花。
それを拾い集め、ハンカチに包んだ。
いろんな気持ちと一緒に…