時空の森と悪戯な風
その ー 幸 ー
アタシは、真っ暗な中にポツンと立っていて、足元には1本の長い道があった。
『弥生』
声がする方に歩いていくと、そこには笑顔の智治がいた。
『ずっと呼んでるのに、突っ立ったままなんだもん』
「ああ…ごめんね」
『ホラ』
智治がアタシの手を握って歩き出した。
やっと触れる事が出来た智治の大きな手…
『あそこで休もうか』
それは、噂の森にあるのと同じベンチだった。
アタシ達は並んで座った。
もちろん、手は繋いだまま。
『弥生と、こうして手を繋いでいれるなんて…昔を思い出すよ』
「そうね…あの日からずっと、願ってた事だもん」
『でも…』
智治が何か話そうとしてた時、どこかでアタシの名前を叫ぶ声が聞こえた。
「誰かに呼ばれたような…」
智治は黙ってアタシを見ている。
『弥生ッ!逝くな!戻ってきてくれッ!』
遥か遠い所で圭介が泣きながら叫んでいた。