時空の森と悪戯な風
「ん?何で泣いてるの?」
『弥生…何でって、悲しんでるからに決まってるだろ?』
「え?」
『見てごらん』
ベンチの左側を見ると、何もない空間にスクリーンがあるように、その状況が映し出された。
それは、アタシの手を握りながら、必死に祈る圭介の姿だった。
『弥生は…ここから先には行けない。こっちの世界でお前を呼ぶのは、まだまだ先なんだ』
「アタシは望んで、こっちに来たのよ。智治の側にいたい…」
『ダメなんだ!』
キツイ口調で智治は言った。
『俺のせいで、弥生自身が自分の命の糸を切るのは嫌なんだよ!俺がいなきゃ幸せになれない?そんな事ない!結婚だけが幸せじゃない、生きていれば、幸せはたくさんあるんだ!』
「アタシは…」
『弥生は俺に無いものを、いっぱい持っている。お願いだ…俺の分まで生きてくれ!そしてもう二度と、自ら死を選ばないでくれ…ッ!』
智治は泣きながらアタシを強く抱き締めた。
アタシの幸せは智治と一緒にいる事だったのに…
今わかる幸せは、それしかないのに…