時空の森と悪戯な風
「この前、弥生とアンタの墓前に立った時の会話、聞いてただろ?
あの時の俺の敗北感…アンタには分からないだろ?
あんな姿を見たのに、それでも俺は、弥生を放っておけないんだよ!
心は俺じゃなく、アンタにあるのに…!」
『アンタは生きてるじゃないか』
「生きてる俺は、死んだアンタに負けたんだよ!」
智治に噛み付くように圭介は言った。
「アンタにも話しただろ?弥生にプロポーズしたって。
でも返事を聞く前にアンタの存在が分かって、そして弥生は昏睡状態だ。
弥生は何も言わないで、俺の前から消えようとしたんだよ…」
ハハハッと、涙を流しながら笑う圭介を、アタシは、ただ見つめるしか出来なかった。
「こんなんだったら、ハッキリ断られた方がマシだった…」
圭介の言葉が、深く胸に突き刺さる。
アタシは、生きる事にも死ぬ事にも、中途半端だったんだ。
『弥生は生きている。まだ、こっちの世界に来る人じゃない。もう少しで目を覚ますよ』
「そうか…でも、それは俺の望みだけど、弥生の望みじゃ無いんだよな…」
『弥生は、命の重さを理解していない。
自分さえ良ければいいと、自分の命(モノ)なんだから、どう扱おうと構わないと、思ってるところがある。
実際は、そうじゃない。
弥生を取り巻く、沢山の人に心配と迷惑をかけたんだ。
俺はアイツに言うよ。
“生きる事も死ぬ事も、簡単な事じゃないんだ”って』