時空の森と悪戯な風
智治を失ってからの約10年を思うと、辛い事が多かった。
でも、辛かったのは智治も同じだった。
いや、それ以上だったのかもしれない。
どこに、自分の愛する人の死を喜ぶ人がいるだろうか?
愛する人には、幸せな人生を送って欲しいと願うものだ。
アタシが智治の立場だったら…やっぱり同じ事を言うに違いない。
そして“自分以上に幸せにしてくれる人がいるから”と伝えるはずだ。
例え、本心は違っていたとしても…
「智治、アナタが生きていた時は、幸せだった?」
『“全てが”とは言えないけど…弥生に出会えて、弥生と過ごした数ヶ月は、本当に幸せだったよ』
ニコッと笑顔で智治が言った。
『どうして、そんな事を聞くんだ?』
「智治が生きてきた17年という短い間、ほんの一部だけど…アタシが智治の人生に関わった事は、智治にとって良かった事だったのか…何となく聞きたかったの」
『何言ってんだよ』
そう言いながら、アタシの頭をクシャクシャッと撫でて
『当たり前じゃん。だから尚更…死にたくなかったんだ…』
笑顔なのに、智治の目から涙が溢れていた。
「こんな言い方は合ってないだろうけど、智治と過ごした数ヶ月が幸せだったから…アタシも死にたかった…」
もう、どんなに願っても、二人の運命は変わらないのね…
アタシは智治と同じように、笑顔で泣いていた。