時空の森と悪戯な風
少しずつ力が入る圭介の手。
アタシの頬に落ちる圭介の涙。
憎さがあれば、躊躇なく力が入るんだろう。
でも…
「出来ねぇよ…弥生を殺すなんて…ッ!ずっと待って、やっと戻ってきたのに!もう離したくないのに!」
圭介は、アタシを抱き締めながら、声をあげて泣いた。
アタシは、また圭介を傷付けた。
こんなにも愛してくれてる圭介を…
取り返しのつかない事を、させるところだった。
「圭介…」
どうにか動いた手で圭介の手に触れた。
「弥生…俺は…!」
アタシは微笑みながら、首を横にゆっくり振った。
「圭介は悪くない…しっかりしないアタシが悪いんだから…」
もう死ぬ事は考えない。
誰かを悲しませたりしない。
今まで、中途半端に生きてきたんだ。
今度こそ、生き抜いてみせる。
本当に人生を全うした時、堂々と智治と会えるように。
『もう大丈夫だよな』
空から智治の声が届いてきそうな、とても綺麗な夕陽の光が、アタシ達を照らしていた。