時空の森と悪戯な風
その ― 時 ―
ある日の夜、夢を見た。
智治と手を繋いでいる。
優しい眼差し。
優しい声。
あの日に返ったような、そう、生死をさ迷った、あの時に戻ったような感覚。
『弥生…リハビリ頑張ってたか?』
当たり前よ、頑張ってるわ。
『うん、見てたよ』
智治がアタシの首元に、そっと触れながら
『痛くなかったか?苦しくなかったか?』
大丈夫よ。
圭介は、いつまでも死にたいと思うアタシを見るのが辛かったのよ。
好きな人の最大の望みが“死ぬこと”なら、それを叶えてあげる事が、愛してる人への“証明”だと思ったのよ。
『あの時は、ビックリした!』
アタシは圭介の気持ちが分かった。
だから許したの。
逆にアタシの方が許して欲しいわ。
圭介を追い詰めたのは、アタシなんだもん。
『アイツ、あれから毎日“時空の森”にきて俺を呼ぶんだ。許してくれって何度も言うんだ』
アタシも圭介も極端すぎるのよ。
“命”は唯一。
消えたら終わり。
愛してる人が望むからと言って、相手の命を壊しちゃいけない。
愛してる人が、そこにいるからと言って、自ら命を壊しちゃいけない。
アタシが智治を追って、薬を大量に飲んだように…
『命さえあれば、やってみたい事が沢山あった。自分から壊す命があるなら、その命は俺が欲しいくらいだよ』
そうだよね。
17年しか生きれなかったんだもんね。
智治はアタシの手を握りながら言った。
『もう…大丈夫だな。退院したら森に来てくれよ、圭介と一緒に。待ってるから』