時空の森と悪戯な風
もう、誰の支えもなく簡単に歩けるようになった頃、久しぶりに噂の森に向かった。
駐車場に車を停め、ゆっくり大木に向かって、森の中を歩いていた。
鳥のさえずりと、アタシの足音が聞こえるだけで、他の音は聞こえなかった。
大木の前に着くと、下からそれを見上げながら、不思議な気分になった。
一時は、この木の上から、圭介を見下ろしていたからだ。
大木に背中を当て、目を閉じ、会いたい人を思う。
何処からともなく、暖かく優しい風が吹き込んできた。
『弥生、元気か?』
光に包まれた智治が目の前に現れた。
「元気よ。風吹いて良かったわ。
この風は、会いたいと願われた人が起こすんだもんね。
そっちに行ってる間に分かったもん」
『ああ、そうだったよな』
ニコッと笑って言った。
『弥生、圭介と仲良くしてるか?』
「普通だけど…何で?」
『いつも来てるからさ』
「えー?聞いてないよ。
まだ智治に話す事があったの?」
智治は半分飽きれ顔で
『弥生の鈍感な所…変わらねぇな。
本当に分からない?』
「うん…」
『じゃ、圭介本人に聞けよ。俺じゃダメだから』
笑いながら言った。