時空の森と悪戯な風
智治は、穏やかな表情だった。
全てを伝えきったような、そんな安心感が、アタシにもよく分かった。
『弥生、ありがとな。
お前のお陰で、俺の止まったままの時間が動いたよ』
「アタシもだよ」
『言いたかった事も言えたし』
「うん。アタシもだよ」
『これからは、そう何度も、ここには来れないかもしれない。
みんな、それぞれ動き出したんだ。
それを大事にしていかないとな…なぁ、圭介!』
は?圭介?
大木の裏側に圭介が隠れていた。
「ちょっと、何でいるのよ?」
「智治に待ってろって言われたんだ。
もうすぐ弥生が来るからって」
クックッと笑いながら、圭介が出てきて言った。
『まぁいいや、俺はそろそろ戻るからな。
後は大丈夫だろ?上手くやってくれよ~』
そう言うと、強い風が下から巻き上がり、アタシのスカートがフワッと捲れた。
「イヤーッ!何するのよ、バカ智治!」
『アハハ!俺まだ10代のガキだから~!』
笑い声と共に、智治を包んだ光は、大木の先端で弾けて消えた。
「やられたなぁ」
圭介が笑いながら言った。
「イタズラ好きな部分は、死んでも変わらないのね」
アタシも笑いながら、ゆっくり大木を後にした。
―おわり―