うらばなし
「あ、あの……、血が……」
「ああ。今日は僕に傷をつけた奴がいたのだよ。傷を作ったのはいつ以来かな――君が僕の背に引っ掻き傷を作った時が最後だったか」
「あ、あれは……その……」
「分かっているとも、おあいこだ。僕とて君を傷つけ、血を流させた。痛かっただろう、抱きしめる手に力を入れるほど。何せ、初めてだったのだから」
「っっ、そんな、いわ、ないでください」
「デリカシーがなかったか、謝ろう。すまないね。――クッ、傷がまだ痛む。じくじくと。君から受けた傷ならば、それもまた甘美だが。よく分からぬ相手からとなれば、そうか、これが苛つきか。腹立たしいよ、とても」
「ひっ」
「どうすればこの苛つきが鎮まるのだろうねぇ。戯れに人間一人を八つ裂きにすればあるいは……」
「や、やめ」
「僕を止めるのか。それとも、君が僕の怒りを鎮めてくれるのかい」
「ぁ……っ」
「そうだ。君しか僕を癒してはくれない。有象無象しかいない世界で見つけた唯一。ゴミ溜めの中の花よ、君を摘み取ることで僕は初めて幸せを感じられる。――もっと感じたいんだ、君を」
「わたし、が……癒せば、他の人は」
「他人など見向きもしないよ。他人を八つ裂きにする暇あるならば、君に愛を囁き与えよう。愛しているよ、愛しておくれ」
「は、い……」