うらばなし

猫「用意周到だな」

妻「明け方まで、掃除中っと」

猫「なに書き足してんだよ。エリクシール風呂なら、入ればすぐに人間に戻るって」

妻「戻ってからが、本番なのよ」

猫「なにーーばっ、いきなり脱ぐな!」

妻「脱衣場は脱ぐ場所なのよ」

猫「だ、だからって俺一人で行くから、ついてくんな!」

妻「ダメよ、あなた。溺れるから、抱っこしなきゃ。あなたも了承したじゃない」

猫「お前が裸になることないだろ!?持って、浮かしてくれるだけでいいって!」

妻「待って、あなたー!」

猫「さっさと入って、元にーーうわ!なんだこの風呂!真っ青じゃねえか!」

妻「エリクシール風呂なら、青くて当然ね」

猫「え、あれはエリクシールが入っている小瓶が青いからそう見えるだけで、中の液体は無色透明なんじゃないのかっ」

妻「良薬は口に苦し」

猫「そ、そうか。苦労してんだな、勇者は」

妻「こんな色をしているからこそ、誰も入らないのでしょうねー。さて、あなた。早速、つかりましょー」

猫「せめてタオル巻いてから抱けっ!」

妻「温泉にタオル入れるのはマナー違反なのよ」

猫「出会い頭に頸動脈刺しに来るお前がマナー云々語るなーーおっ、いいお湯だな」(バシャバシャ)

妻「綺麗な猫かきねー、あなた」

猫「ちょっと粘ってるお湯だが、かなり気持ちいいな。露天風呂だから、景色も最高だし。見ろよ、あっちの山、桜満開だぞ!」

妻「無邪気なあなたを見ていると、エリクシール風呂を更にネバネバにしてしまいそうだわ」

猫「体液流すな!にしても、エリクシール風呂名乗るだけあって、すごいなー。ほら、あそこにドラゴンの置物あるぞ!デカいなー、学生時代にやったゲーム思い出す!」

妻「ええ、本当に」

猫「おっ、首動くぞ、あのドラゴン!」

妻「よくできた置物ね。ジュラシックパークに影響されたのかしら?」

猫「羽根も広げて、ますます見応えあるな」

妻「あら、飛ぶのかしら」

猫「すげー。子供だけじゃなく、大人も喜べる置物だな!」

妻「何だか、頭をペコペコして飛んで行ったわね」

猫「別の浴場にでも行く仕掛けがついてんだろうな。子供専用風呂とかあったし、そこにでも行ったか!」

妻「ねえ、あなた」

猫「ん?」

妻「ワタクシとあなたは一般人よね」

猫「?まあ、そうだな」

妻「なら、この反応が普通ね」

猫「何の話だ?」

妻「いいえ、忘れて。あなたはお湯につかって、じっくりと疲れを取ってね」

猫「おう!ああ、ほんといいなー、温泉。日本人で良かったー」

妻「ぷかぷか浮くだなんて、器用ねー」



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