うらばなし
ーー
「そっか、『草原』か。素敵100%。ーー内訳、過ごしやすそう50%。昼寝に最適そう50%」
注射を片手に、無番は言う。
前日に救済との会話を話してしまったのは、自然の流れだ。
「そこに君が添い寝してくれるなら、更に素敵な場所になるのだろうけど」
ワタシの首を撫でた後、注射針を刺された。
畑違いの分野だと言われ、別の医者に注射を打ってもらったことはあるが、やはり、彼の腕が一番だ。
痛みがまったくない。
頭を撫でられるまで、注射針を抜いたことも分からなかった。
「ありがとうと言ってくれるなら、四番のままでいてくれないか?君がいなくなったら、恐らく、最悪の奴が入るだろう」
礼すらも要らぬ関係だからこそ、あえてワタシは礼を言う。しかして、今の無番にとっては苦笑する思いとなる言葉。
“あの輩”は、既に後釜を見つけていたか。
最初から最後まで、“あの輩”は全てを見透かしている。
なれば、もう、ワタシのこの決心は“心変わりはしない”と決定したも同然だ。
無番とて重々承知。
こぼれたため息は、致し方がないとの現れだった。
「『まっさらな草原』。“君の世界平和”に、人類はいない。世界ーー地球にとっての害悪は人類である、とはどこの著者の台詞だったか。それに関して、僕は反論しようがない。まさしくそうだろうから」
飲むかい?とミルクを差し出された。
遠慮なく飲ませてもらう。
「でもね、人類は今や世界と共存している。上手い具合に成り立っている」
例え、揺れ幅が大きい天秤だろうとも、ーーだからこそ“釣り合おうと、釣り合っている”この事実を、ワタシは無視しているわけではない。
しかして、無番、ワタシはどうあっても、今が『平和』とは思えないのだよ。
ミルクの次は、すり林檎を差し出される。ワタシの好物だ。
「『まっさらな草原』を目指すなら、どうあっても、五番ーーいや、魔法使い全員と敵対することになるだろうね」