うらばなし
救済にも同じことを言われた。
笑いながら、言われた。
君の喉元に噛みつくのは、そう遠くないだろう。出来れば、そんな未来など来てほしくないが。
「『お前相手に手加減はしない。だから、なるべくならば、私の目の届かない場所にいてくれよ』か。彼女らしい100%。ーー内訳、男前50%。やだ惚れちゃう50%」
そんな君は、ワタシに“いつも通りに接してくれる”な。
「でないと、君が困るだろうと思って。四番として抜けた後も、必要とあらば呼べばいい。君は病気になりやすい体質なのだから、定期的な予防接種をしなければ」
もっともだ。そのため、ワタシは紙上に書かれた『はい』の文字を示す。
だが、すぐに『いいえ』の文字に“前足”を置いた。
「もう、会わないか」
言葉を示さずとも、無番は察する。
書庫を見習い、このワタシと意志疎通するためにこの紙を作ってくれたーーなんでも、『こっくりさん』とやらを意識してみた100%というこの紙ともおさらばか。
木や鳥の声を聞くことが出来る魔法使いたちと違って、無番との会話は必ずこれが必要になってしまうのだが。
「僕は本来、人間を診るのだけど、君のおかげで獣医の資格も取れそうだよ」
その腕で取っていなかったのか、なんとも惜しい。
「恐らくは、動物を診ることはもうないだろう。僕も、“人類寄り”だから」
出された無番の手に、前足を重ねる。
『おて』のポーズらしいが、ワタシは礼節を込めて、行っている。
「次に会った時、君は僕の喉元にも噛みつくのか?」
『はい』と『いいえ』。両方を示し、ワタシは無番に別れを告げた。