うらばなし
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秋月「冬月ー、いつまで寝てん?もうすぐ、ケーキ取りに行く時間やろ?この日のために、何十件もお店回って、とっておきのを予約したんやから、寝坊助はあかんどすえ。雪が酷いさかい。僕はわたるんはんと、依子はん迎えに行くから冬月はケーキをーーどないしたん?冬月、襖開けますえ」
冬月「開けないで、兄さん!」
秋「な、なんや、えらい切羽詰まった声出して。何があったん!?」
冬「ご、ごめんーーあ、か、堪忍どすえ、兄さん。用事出来たから、代わりに兄さんがわたるんはんたちをもてなしてぇな。その、絶対開けないで。僕もすぐに行くから」
秋「なあに、無理してん。用事ってなにぃ。わたるはんたちよりも大切なことなんてあるんどすか?」
冬「そんなのあるわけーーげほっげほっ」
秋「……」
冬「あ、違う!これは、飲み物が変なところに、だ、だから、風邪じゃない!ごほっ、し、心配なんてしなくていいから、絶対入ってこないで!」
秋「風邪か」
冬「ちがっ」
秋「にいちゃんに嘘つくん?」
冬「っっー!だ、だって、風邪引いたとなれば、兄さん心配するじゃないかっ」
秋「当たり前どすえ」
冬「そしたら、ここに入って来るだろう!昨日から熱が40度近くあるし、きっとインフルエンザだから、兄さんに移す!こんな苦しみを兄さんに味あわせるわけにはいかないから、お願い、来ないで……」
秋「僕がインフルエンザなれば、あんさんは四六時中べったりで介抱してくれるんと違う?」
冬「それはそうだよ。兄さんの体内にあるものを……くっ、考えただけでもゾクゾクと。げほっげほっ」
秋「その寒気(ゾクゾク)はインフルどすえ」
冬「確かに矛盾するよ。でも、これが僕の気持ちなんだ。兄さんにこんな苦しみーーこれから来る渉や姉さんにも、こんな苦しみを移すわけにはいかない。ワガママでごめん、渉たち来る前に出て行くから、許して」
秋「出て行く言うても、雪やこんこんどすえ」
冬「兄さんたちを苦しめるなら、死んだ方がいい」
秋「……、はぁ。強情な子どすなぁ」
冬「……」
秋「そのまま寝ときぃ。部屋から一歩でも出たらーー二度と口を利かない」
冬「!!」
秋「……」スタスタスタ
冬「兄さん……」