うらばなし
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冬(どうしよう、嫌われた。嫌われた。ワガママだから、嫌われた。兄さんを苦しめるぐらいなら、自分が地獄に落ちる気でもいるのに。嫌われた。こんなにも大切に思っているのに嫌われた。兄さんも僕を大切に思ってくれているから嫌われたんだ。でも、そう分かっているからこそ、移したくなかったのに)
冬「……」
(どこかの誰かに移された菌なんか、兄さんの中に入れたくない。僕の自業自得を兄さんの負担にしたくはない。嫌われたくないから。嫌われたくない。ワガママ言ってはいけない、嫌われたくないなら。でも、嫌われたくないのに、苦しめたくないのにしたことが裏目になった。せめて、これ以上嫌われたくないから、部屋にいなきゃ。治るまで出ない。いや、治っても出ない。兄さんから許しが出るまで。嫌われたくない、嫌われたくない。兄さんに呼ばれたい)
冬「……げほっ」
(渉や姉さんも、こんな有り様じゃ失望する。一ヶ月前から誘って、二人とも楽しみにしてくれていたのに。嫌われる。雪の中、家まで来てくれるのに。兄さんがうまくやってくれるだろうけど、言い出しっぺが、なんてざまだ。嫌われるに決まっている、こんな体たらく。嫌われる。嫌われるならいっそ、己を切りたい。咳しかしない忌々しい喉に刃を突き立ても、汗ばかりが出る皮膚も削ぎ、苦しいと思う脳を掻き出したい。嫌われる前に、嫌われる時を見る前に。渉、姉さん。渉、姉さん……嫌われる、二人に嫌われる)
冬「げほっごほっ」
(嫌われた。嫌われたくない。嫌われる。嫌われた嫌われたくない嫌われる。イヤだ、やだ、嫌われた嫌われたくない嫌われるなんて、こんな、苦しい。兄さん、姉さん、渉。ごめんごめんごめん。苦しめたくないのに呼びたくなる、近くにいてほしくなる、駄目なのに移すのに、こんな身勝手はいけないのに)
冬「こんな、大きな布団あっても……」
(独りがより、孤独になるだけだ)