うらばなし
薬よりも効果抜群な物
ーー
紫「お邪魔しているよ、雛」
雛「へ?わ、し、紫暮さん!?ど、どうしたんですか!今、深夜一時なのに!」
紫「ごめん。こんな夜中に来るのはと思ったのだけど、雛に頼みたいことあって。ーーゲホッ」
雛「なっ、風邪ですか!マスクしていても、目がとろーんとして、酷そうですよ!」
紫「薬が効いているんだと思う」
雛「ね、熱は!?」
紫「38度」
雛「きゅ、救急車!」
紫「大丈夫、そこまでじゃないから」
雛「で、でも。あ、わ、私に頼みたいことって、看病ですか!ど、どうぞ、このベッドに!」
紫「それはそれで嬉しいのだけど、遠慮しておく。雛に風邪移ったら大変だし」
雛「じゃ、じゃあ、何を頼みたいんですか?」
紫「差し支えなければ、毛布一枚貸してもらえないかな。確か、押し入れに余計に一枚あるとか言っていたよね」
雛「そんな寒い思いをしていたのですね!あります、いっぱい!三枚ぐらいありますので、持って行って下さい!」
紫「いや、俺が欲しいのは雛が今使っている物」
雛「へ?これですか?」
紫「そう。現在進行形で使っていた毛布を貸してほしい。雛は寒くないよう、押し入れの毛布を使っていて」
雛「??」
紫「首傾げる雛に説明するとすれば。酷い頭痛と寒気が三日ほど続いて眠れないんだ」
雛「い、いちいちきゅう!」
紫「大丈夫だから。このままじゃまずいと思ってね、ふと雛の近くなら眠れると思ったのだけど、こんな酷い風邪を移すわけにはいかない。そうして思いついたのが毛布。雛の匂いが染み付いた毛布にくるまれば、安眠出来るんじゃないかと思ってね」
雛「そ、そういうことなら、いくらでも貸します!」
紫「ありがとう。じゃあ、夜に起こしてごめんね」
雛「あ、い、いえ。でも、持って行けますか。何だか足元がふらふらで」
紫「……」(ガタンっ)
雛「紫暮さん!?」
紫「ご、ごめん。棚にぶつかった。壊れていたら後日新しいのを買うから。じゃあ」(ガタンっ)
雛「同じ棚にぶつかってますよ!や、休んで下さい!ここで!」
紫「雛に風邪移すわけには」
雛「移りました!もう移りましたから、だ、だから、気にせずに寝て下さい!移ったので、また移っても同じですから!」
紫「雛、でも……」
雛「紫暮さんが酷いときにそばにいちゃ、いけないんですか……。紫暮さんは、私が酷いときにいてくれたから、わ、私も、なにか、したくて、だ、ダメですか……」
紫「本当は、それを期待していたのかもしれない……」
雛「え」
紫「移したくないなら、始めから来なければいいのに。こうして、毛布貰えればいいと思ったのは事実だけど、やっぱり、苦しいときに雛の顔ばかり思い出して。人間、弱ると無様になるね。自分勝手なことばかりーー好きな人に迷惑かけることをしてしまう」
雛「かけて下さい、いっぱい!紫暮さんのなら、いいんです!迷惑なんて、思ってません!逆に、そんな時も頼られないのはーー寂しいです」
紫「ありがとう。じゃあ、雛のお言葉に甘えるよ。後は、よろしく」(バタンッ)
雛「紫暮さん!?い、いきなり倒れて、ど、どど、どうしっ!」
紫「……」(zzZZ)
雛「爆睡!?私の毛布にくるまって、わ、私の匂いって睡眠作用があるんだ。だから、毎日朝起きるのが辛いのか……。って、そうじゃなくて、紫暮さん、せめてベッドで!床は冷えますよ!」
紫「……」
雛「もしもし、紅葉ちゃん!?ど、どうしよう、紫暮さんが爆睡して、ベッドに戻ってくれないの!」
紅葉『珍しいわねー。いつもあんたが、意識失ってベッドまで運ばれるのに。どこ?ソファー?風呂場?台所?あたしが前に教えたテクで、あの鬼を腰抜けにするなんて流石よ、雛!今度目の前で実践してね!』
雛「そ、そうじゃなくて!」
紅『分かっているわ、雛。とりあえず、キスしながら、今度はベッドがいいですのセリフで、どんな男も一発で起きるわよ!』
雛「そうじゃなくてえええぇ!」(号泣)
※でも、キスしたら起きました。