うらばなし

ーー

「ご主人様っ、ご主人様っ、踏んで下さい!」

「……」

「ああ、私めを放置プレイするという酷なご褒美を与えて下さる一方で、今お手にしている本が『犬のしつけ方』。感服です!現在進行形だけでなく、そう遠からぬ未来にまで私めを責め続けて下さるその鬼畜生よりも非道なお心!ご主人様以上の主は他にいますでしょうか!否っ、否ぁ!犬の中の犬にして、駄犬の私めが宣言致します!ご主人様以上に素晴らしく残酷な方はいないと!」

「おすわり」

「はい!ーーおっと、私めとしたことが、駄犬の分際で人語を使ってしまった。お許し下さいご主人様!おすわりついでに、額をフローリングにこすりつける超おすわりをお見せしますので!」

「犬で夜叉な奴以外に、おすわりで座る奴は初めて見た。いいから、黙って。気が散る」

「永久的に黙れと仰るので?あぁ、なんと、人類にとってーー犬にとっても必要不可欠な器官の使用不可を命じて下さるとは。承知致しました。ただいま、この針と糸で」

「もう面倒だから、いつも通りでいい」

「ご主人様っ、ご主人様っ、踏んで下さい!」

「面倒がうぜえぇにバージョンアップだ。少しの間、真人間になると言うのなら、チョコあげる。バレンタインだし」

「ええ。分かりました。本日より私めは真人間となりましょう。踏まないで下さい、汚い、訴えます」

「そんなにチョコが欲しいのか!?」

「もちろん。ご主人様の手作りチョコともなれば、きっと。ーー舌を蹂躙した後、喉を焼き、胃袋を荒れさせ、三日三晩はトイレの住人になってしまうような至高のチョコとなりましょう」

「まずいなら、まずいと言ええええぇ!」






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