うらばなし
「今日の君は怯えてばかりだな……。ああ、そうだ、レイン。良ければこれを」
「紙……、レシピですか」
「調理しているところは見せられなかったが、デザートは基本、分量さえ合っていれば味は変わらない。好みの良し悪しもあるが、そこに書いた分量でやれば失敗はないだろう。
くれぐれも目分量は控えるように、1gの差違でも味と出来栄えの違いが出てくる。
あとのポイントだが、そちらの屋敷のオーブンの“癖”を知っておくように。180度に設定したとしても、形によって火の通り具合にむらがあったり、置き場所によっては温度の上下も出てくる。癖――まあ、扱い慣れろということだな。
後は、めんどくさがらないこと。メレンゲを作るにも、粉をふるうにも、“手間がかかるから手を抜く”というその一手間をないがしろにしないように。
菓子作りはなかなかに根気がいるし、時間もかかる。どこかで無駄の消費――時短をしようと思う気持ちは分からなくもないが、その抜いた一手間が出来栄えを左右すると覚えてほしい。
そんな細かいとこも書いてあるから……ああ、小うるさい内容かもしれないが、レシピ通りに作ってくれるならば、味は保証しよう」