朱の蝶
『一度、食った女は食わない
 何度も手つけて、彼女面でも
 されようものなら堪んねえ』

俺は、いつかの浬の言葉を
思い出していた。

「本当に、すまない・・・」

春華という名前の、その女性は
それ以上何も言わず、弦の傍
からいなくなった。

閉まるドア

階段を駆け上がる音

振り返る俺の瞳に、チカ
お前の姿は映らない。

聞こえるのは、二階の部屋の
ドアが閉まる音。

出掛ける用意を済ませたお前
は、部屋に閉じこもったまま
今も出てこない。

俺が春華に出会ったのは
この街に戻って、初めて
母に会う為に祖父の家に
出向いた時だった。
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