朱の蝶
俺は正直、母や身内に会う事
が怖かった。

血の繋がった人間の、冷たい
視線ほど、この身に、この心
に深く突き刺さるものはない

自分の犯した過ちを責められ
るのは、もう懲り懲りだ。

玄関の扉が開くとそこには
めっきり年老いた祖母が
少し前屈みになった姿勢で
立っていた。

「ゲンちゃん、おかえり
 お母さん、待ってるよ」

「ばあちゃん、ただいま
 
 ばあちゃん、ごめんな」

俯く俺の頬に、祖母の
手が触れる。

「生きてる間に、貴方に
 会えて良かったわ

 さあ、お入り」

昔と変わらない祖母の
膨よかな手の温もりに
触れて、俺は少しだけ
涙した。
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