せつなくて
すたーと
あたし、佐倉莉々はいつも通り3年3組に向かう。
「おっはよ~!莉々が遅いのめずらしいね」
「ああ、ちょっと寝坊(笑)」
声をかけてきたのは親友の里田彩。
最後のクラス替えで同じになることができた。
ギリギリセーーーフ!
なんとか間に合った。
「出席とるぞ~」
先生の声でみんなが自席に着く。
あたしたちは今中学校生活最後の1年を送っている。
まだ5月だっていうのに毎日毎日進路の話ばっか。
そんなことより、あたしは2週間後の運動会で頭がいっぱいだ。
「ねーねー、彩ってやっぱリレーでんの?」
「そりゃ、もちろん(笑)」
彩はクラスの女子で1、2番目に足が速い。
あたしは中くらい。普通ってつまんないよね。
「あ、1時間目運動会練習じゃん!」
校庭に出ようと靴箱に向かったとき。
「莉々、あれ楓じゃない?」
田口楓、陸上部の2年生でたまにメールするくらいの仲。
みるからに足速そうな名前だよね。
「でも知奈の元彼って痛いよね~。」
知奈は3年で最も嫌われてる女子。
しょうがないよ、あの性格だもん。
楓は知奈の押しに負けて付き合ったんだって。
そのとき、コソコソしてたのがバレたのか
楓が一瞬こっちを見た。冷たい視線。
何事もなかったかのように校庭に走って行く。
「楓ってさ、性格悪そうだね。」
「たしかに(笑)」
たしかに、なんて答えたけど。
楓のことは嫌いじゃなかった。
凛とした顔立ち。
さらさらの黒髪。
年下とは思えない長身。
むしろ意外とタイプなのかも、なんて。
でも楓を恋愛対象で見たことはない。
きっとこれからだって―――――
そう、思っていたのに。