約束を破れない男(仮)
『それでですね、ふとあの時の約束を思い出したんです。百万円を百倍にしたら死ねばいいって言うね』

「お話はわかりました。しかし、その男性は『百万円を百倍にしたら死ねばいい』という約束をしたわけではないと思いますよ」

『そうですかね?』

「そうですよ」

『しかし、私の中ではあれは約束という位置づけがされているんですよね。どうも、私は融通のきかない性質のようで、どうしても死ななくてはいけないという思いに駆られるんです』

「わかりました。では、私がその男性を見つけ出してきます。そして、直接その方に真意を伺ってみましょう。なので、それまではどうか何も行動を起こさずにいてください」

『そこまでしていただくのは、逆に申し訳ないです』

「いえ、これは私が勝手にしたいと思ってすることです。なので、お気になさらずにいてください」

『そうですか。板垣さんがそこまでおっしゃるのなら、その男性が見つかるまでは大人しくしておきましょう。しかし、ずいぶん昔に一度だけ会った人物をどうやって見つけるおつもりですか?』

 しかし、板垣には一つの妙案があった。

「あの、できれば一度直接お会いして、もう少し詳しいお話を聞くということはできないでしょうか?」

『直接ですか? わかりました。そこまでしていただくのに、断る理由などありません』

 板垣は、第一の関門を突破できた安堵から小さく息を吐いた。

「では、どちらでお会いしましょうか? ご希望の場所があれば、こちらから出向かせていただきます」

『そうですね……。落ち着いて話をするということであれば、ご足労ではありますが私の自宅に来ていただくということはできますか?』

「ご自宅に伺って宜しいんですか?」

『はい。むしろ、その方が助かります』

「わかりました。では……」

 板垣は、その電話の主と直接会う約束を取り付け、静かに受話器を戻した。手元に置かれたメモ帳には、几帳面な文字でどこかの住所が書かれていた。
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