白花に恋する(企短)





夕方に私の姿を見つけた彼は、一旦は素通りしたものの気になって戻ってきたそうでした。


「……私、篤沙が好きだよ」


私の言葉に彼は優しく笑うのです。まるで春が来たように、私の心を温かくするのです。


「俺も、湖都が好きだよ」

「っ、ありがとう」


久しぶりに彼に呼ばれた自分の名前が、キラキラしていたような錯覚。

それくらい、彼は私にとって特別でした。





「ほら、これ」


泣き止んだ私に彼が差し出したのは、あの、白い花束でした。


「え、でも、あの草原は……」

「そうなんだ、潰れちゃってさ。探すのに苦労したよ」


私に会わなかった2年間も、毎年欠かさず薺を摘んでくれていたそうです。

わざわざ探して、摘んで、束ねて。私に会う勇気が出ずに食卓に飾られていたとか。





< 12 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop