白花に恋する(企短)
夕方に私の姿を見つけた彼は、一旦は素通りしたものの気になって戻ってきたそうでした。
「……私、篤沙が好きだよ」
私の言葉に彼は優しく笑うのです。まるで春が来たように、私の心を温かくするのです。
「俺も、湖都が好きだよ」
「っ、ありがとう」
久しぶりに彼に呼ばれた自分の名前が、キラキラしていたような錯覚。
それくらい、彼は私にとって特別でした。
「ほら、これ」
泣き止んだ私に彼が差し出したのは、あの、白い花束でした。
「え、でも、あの草原は……」
「そうなんだ、潰れちゃってさ。探すのに苦労したよ」
私に会わなかった2年間も、毎年欠かさず薺を摘んでくれていたそうです。
わざわざ探して、摘んで、束ねて。私に会う勇気が出ずに食卓に飾られていたとか。