「卒業式と恋。」
国語の授業中。

普段なら熱心にノートとシャーペンに目を落としていたが、今は違う。

教室内にやっぱり存在していた長い髪の少女、ぶつかったあの少女の事を見ていた。

国語の授業では教師が淡々と文章の内容を喋(しゃべ)るだけだったので、復習と予習さえしていればテストでも問題なく高い点数を取れるのだ。

長い髪の少女は、どんな女の子なのかを知りたかった。また話したい、とも思った。

どんな考え方を持っているのか。
どんな笑い方をするのか。
どんな、悲しい顔をするのか。

それが見たかった。それを空想しているうちに国語の授業は終わってしまった。

次は、数学だ。

数学は苦手な分野だったのでもとより勉強する気も起きていなかった。

しかし、当てられたら困るので教科書を読んでいる振りをしなければならない。

教科書で遮(さえぎ)られてしまった長い髪が妙に艶(つやや)かしく映る。

雪は、自分の心臓が高鳴っていくのを感じていた。


そして、昼休みになった。

雪はいつも一人で食事をしている。しかし、今日は何故か目の前に人がいた。

…:「さっきはぶつかってしまってごめんなさいね・・・。」

雪:「ううん。いいんだよ。」

…:「あたしも、一人で食べてたから。今日はよろしくね?」

雪:「うんっ!」

…:「雪は、意外と人気者なのよ?あなたと話したいって男子も多いんだから。」

雪:「ふぇ?そうなの?」

…:「ふふ。そうよ。あなたは、可愛いから。」

雪:「・・・ふぇ?」

…:「いいえ?なんでもないわ。」

雪:「あ。その卵焼き美味しそうだなぁ。」

…:「じゃあ、そのレタスと交換しましょうか?」

雪:「レタスと?」

…:「えぇ。野菜。ちょっと食べたいの。今は野菜って気分ね。」

雪:「おかしなひと。いいよ、交換だ!」

…:「ふふ。」


雪はレタスを失った代わりに卵焼きを得た。

お互い笑顔になった。明るい自分を見せられる、明るい自分を見てくれるチャンスだ。そう思った。

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