「卒業式と恋。」
目の前の女子生徒は秋、という名前らしかった。

秋は、時折寂(さび)しそうな顔をするが、それでもいつでも、大抵(たいてい)は笑顔でいた。

秋は、卒業したらどこに行く予定なんだろうか。

もし、一緒の高校だったなら。それはそれは嬉(うれ)しい事だ。それに、雪が住んでいる地区では高校は二つしかない。田舎に住んでいる、と言ったら雪に怒られてしまうかもしれない。

その日、雪は秋を待ってから帰ることにした。

いつもなら早々に帰ってしまうのだが、今日だけは特別なのだ。新しい友達が、ようやっと三年目にしてできそうなのだから。

雪:「秋ちゃんは、どこに住んでるの?」

秋:「この道をまっすぐよ。」

雪:「へぇ~・・・。」

秋:「雪は?」

雪:「ボクは、ちょっと曲がったところかな。」

秋:「曲がったところって。屋敷(やしき)があるところ?」

雪:「そうだね。屋敷かもしれないね。」

秋:「そうなの・・・。すごいわね。」

雪:「えへへ~!」

秋:「それじゃ、今度遊びに行こうかしら。」

雪:「うん!」

秋:「ふふ。」

遊ぶ約束までしてしまった。誰かを家に呼ぶだなんてことはそうそうしない雪だったが、秋だけは特別だ。

そして、その日から楽しく遊ぶ秋と雪の姿があった。


春休み。

春になって、桜が舞っている。

待っているのは、桜だけではなかった。雪と秋も桜を待っていた。

桜が咲いたならば、一緒に花見が出来る。もし、一緒に花見が出来たならどんなに楽しいだろうか。

そして、その花見が実現しそうなのだ。


携帯電話のメールで。二人は日取りを決めていた。

親からも友達と遊ぶ、と言ったら了承してくれたのだ。夜まで遊ぶかもしれない。

ずっと、長い時間一緒にいることが出来る。それを考えるだけで胸が跳(は)ねるのだった。

雪:「じゃあ、今度の日曜日は?」

秋:「そうね。天気もよさそうだし、そうしましょう。」

雪:「決まりっ!じゃあ、その日に駅前で会おうか。時間は?」

秋:「そうねぇ・・・。昼から行ってみましょうか。」

雪:「うんっ!」


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