「卒業式と恋。」
そして、当日。

春らしくうららかな天気だ。

秋は、どんな服装で来るのだろうか。いろいろな妄想(もうそう)が行き来する。


そして、秋がやってきた。

秋:「あら。雪。もういたの?」

雪:「えへへ~!」

秋:「まだ約束まで三十分もあるじゃない。あたしはこれから買い物に行こうと思ってたのだけれど。」

雪:「それじゃ、いっしょに、れっつご~!」

秋:「ふふ。」

雪:「どこに行くの?」

秋:「大したものじゃないのよ。ちょっとね。」

雪:「ふぅん?」

初めて繋(つな)いだ手のひらは、春のそれとは違っていて冷たかった。

できることならば、自分の体温で温めたい。秋の小さな手のひらを温める事ができたならば。それだけでも幸せになれるのに。そう思っていた。

秋は、ペットボトルのジュースを何本か買って、エコバッグに入れた。

冗談(じょうだん)っぽくお酒は?なんて聞いてくる秋の笑顔が、雪には眩(まぶ)しかった。

そして、花見をしようと山に登ってみる。

結構険(けわ)しくてよろめくところもあったが、小さな手のひらに似合わず力強く秋が引っ張ってくれるところなんかが雪には頼もしかった。

よろめくたびに苦笑いを浮かべる秋が、愛(いと)おしかったのだ。

そして、拓(ひら)けた場所に腰(こし)掛ける。

満開の桜。

来年は、来年も、この桜を二人で見たい。そう思う雪だった。


そして、夜になる。

買ってきていたジュースもなくなり、もう帰ろうか、という頃。宴会騒(さわ)ぎをしている人間たちに呼び止められた。

どうやら、一緒に花見を楽しまないか、という誘いだった。

雪は酔(よ)っ払いが嫌(きら)いだったので遠慮(えんりょ)したかったのだが、秋がすいっと中に入ってしまったのでしょうがなく中に入る事にした。

秋は、早速(さっそく)缶ビールを飲んでいる。


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