陽に温もる頃
プリズム
◆
扉が開いた瞬間
生ぬるい潮の香りが鼻をくすぐった。
「ママ!アサリ、いっぱいとれるかなぁ?」
待ちきれない、とばかりに
女の子がちいさな熊手を持って
ぴょこん、と降りていく。
ぽかぽか陽気の弁天島駅は、今日も賑やか。
浜名湖には、赤い鳥居が
ででんとそびえ立っている。
◆
JR東海道線
浜松駅から豊橋駅まで。
海沿いを
国道1号線と新幹線に並行して走る
各駅停車
ほんの40分足らずのショートトリップ。
右手に広がる浜名湖、左の太平洋は
いずれも紺碧の色鮮やか。
左の頬が、温かい。
陽は柔らかく水面を照らして
風を受けてキラキラ光る。
ウキウキするような、白金色のダンス。
水の世界も、春の訪れを喜んでいるよう。
◆
浜名湖を越えて
みかん畑の広がる湖西市を抜けると
電車は愛知県との境をまたぐ。
枯れた色の田んぼには
いつの間にか若い緑が芽吹いている。
民家の敷地にびっしり生えた竹が
目に痛いくらい眩しい色を発しているのに驚いた。
強さを増す太陽光線は、
すべての色味を鼓舞する。
奥の山々も、また
枯木の中に
桃色が混じり始めている。
これから
桜が咲いて、霞に包まれたら
春山の佇まいを見せてくれるんだろうな。