陽に温もる頃
プリズム







扉が開いた瞬間

生ぬるい潮の香りが鼻をくすぐった。




「ママ!アサリ、いっぱいとれるかなぁ?」


待ちきれない、とばかりに

女の子がちいさな熊手を持って
ぴょこん、と降りていく。




ぽかぽか陽気の弁天島駅は、今日も賑やか。


浜名湖には、赤い鳥居が
ででんとそびえ立っている。









JR東海道線
浜松駅から豊橋駅まで。


海沿いを
国道1号線と新幹線に並行して走る

各駅停車
ほんの40分足らずのショートトリップ。




右手に広がる浜名湖、左の太平洋は

いずれも紺碧の色鮮やか。



左の頬が、温かい。



陽は柔らかく水面を照らして

風を受けてキラキラ光る。



ウキウキするような、白金色のダンス。



水の世界も、春の訪れを喜んでいるよう。











浜名湖を越えて

みかん畑の広がる湖西市を抜けると

電車は愛知県との境をまたぐ。





枯れた色の田んぼには
いつの間にか若い緑が芽吹いている。




民家の敷地にびっしり生えた竹が

目に痛いくらい眩しい色を発しているのに驚いた。


強さを増す太陽光線は、
すべての色味を鼓舞する。





奥の山々も、また

枯木の中に

桃色が混じり始めている。




これから

桜が咲いて、霞に包まれたら

春山の佇まいを見せてくれるんだろうな。








< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop