刻の無い少女
考え事をしながらよたよたと虚に手を引かれ庭へ向かった。
虚の背中は広くて高かった。
そこに流れる艶のある黒髪。
着ている着物も黒だ。
黒が好きなのかな?
虚の姿を分析している内に庭へと着いた。
咲いている
色とりどりの花たちが
咲き乱れているといった方がいいかもしれない。
その素晴らしさに嘆息が漏れた。
そんな鵯の様子を虚は満足そうに横で見つめていた。
「こっ…ここの庭、虚がやってるの?」
「やっているとは、世話をしているということか?」
庭から片時も目を離さずうなずく。
「やることが無いから庭の手入れはしているな。
そんなに庭は綺麗か?」
首が千切れそうな勢いでうなずいた。
「そうか。それは嬉しいな。案内しよう。」
紅い鼻緒の下駄を履いて庭を案内してもらう。
巧みに配置された松や椿や梅たち
虚がいろいろと説明してくれたが
鵯は一本の樹だけを見つめていた。
一際目立つ
一本の大きな垂れ桜
鵯は垂れ桜だけを見つめていた。
サクラ