あやめ【短編】
「7歳の時、学校の帰りに階段から落ちて頭打っちゃって。それで記憶が途切れてしまってるんです。」


「そうなんだ…大変だね?」



「いいえ。もしかしたらその時会ったことあるかもしれませんね!」


笑顔を向けると、優作は何か考えているような様子だった。


私は零れたあんこに気付き、急いでハンカチを取り出そうとしたが、ハンカチを家に置いてきてしまっていた。

「あっハンカチない…」


慌てた私に優作は気付くと青いハンカチを手渡した。


「ハイ。どうぞ。」


…え。貸してくれるの?


「ありがと…」



私は顔を赤くした。


「……ちゃーん!」


遠くの方で誰かが私を呼んでいる。


声も段々近付いてきて、公園にお兄さんが走ってきた。



「彩芽ちゃん!」


「お兄さん!?」


お兄さんは私を見つけると近付いてきた。


「心配したよ。散歩に行ったっきり帰ってこないから……この人は?」


お兄さんは隣にいる優作を軽く睨む。


「あっ。この人はいなくなったベルを見つけてくれた人で…ゆうさ…」

「いいよ。俺はもう帰るね。」



優作は鞄を手にすると、公園を後にした。


お兄さんはそんな後ろ姿を不思議そうに眺める。


「あの人…何なんだろうね?」








「う、うん……。」



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