あやめ【短編】
「そうなの?」


意外にも有名だと聞いて驚く。


「たしか…いつも一緒に行く大通り辺りだと思うけど。」


「そう…。ありがとう結衣ちゃん。」


「でも何で?」


「え!?いや、別に?」



慌てて隠す私を結衣ちゃんは不思議そうに眺めた。


危ない危ない。


結衣ちゃんに知られたら大事になるとこだった。



私は溜め息をつくと、もう一度名刺の裏を見たのだった。







―――――――……


「コーヒー2つ。」



静かなホテルのカフェで、女が定員に言った。


遅れて優作が席につく。


「優ちゃんに会えたの久しぶりね。」


女が微笑むと、優作は目を細めた。


「そうかな?」


「そうよ。ずっと会いたかったんだから。」


女は長い髪を耳にかけると、もう一度笑った。

「それで、例の件は?」


優作も手渡されたコーヒーを口にすると、顔を上げる。


「…まぁまぁかな。」

「そう…。じゃあ“その子”には会えたのね?」


「まだ、わからない。」


「え?」


「“あの子”だという証拠が足りないんだ。」


優作は軽く拳を握った。

「……どちらにせよ、もし“あの子”だとしたら消えてもらわなければならないわ。」




女のその凍るような目は、優作の手に握られているひよこのキーホルダーに向かって見つめられていた。




「……ああ。」





優作は静かに頷いた。






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