あやめ【短編】
―――――――………


私はいつしか公園のベンチに腰掛けて、ボーッと星空を眺めていた。



『今日はありがとう。彩芽。』




『何で他の男のとこなんか行くんだよ!?』






二人の顔を思い出しては、優しい優作の顔が後から残る。


その度に胸が高鳴って…



「はぁ…。私ってこんなに優柔不断だったのね。」






そういえば、初恋は唯斗さんだったんだっけ?



あれ…?でも…







「何してるの?こんなところで。」



「!?」


急に後ろで声がして、振り返った時優作が立っていた。



「な、何してるんですか!?熱は!?」



「治ったよ。もう。……彩芽…これ忘れただろ。」



優作さんがポケットから出したのは生徒手帳。


私はそれを受け取ると、静かに俯いた。




なんでこういう時に現れるかなぁ…




「優作さんって…いっつも現れますよね。まるで私のことでも監視してるみたいに…。」




優作はその言葉にピクッと手を動かした。




「…そうかな?」



優作は微笑むと、星空に視線を向ける。





「彩芽ってさぁ……本当に覚えてないの?」



「…え?」









「…7歳の時の帰り道。」






…え? …どういう意味?


「う、うん…全く。あ…でもお医者さんが何かの拍子に思い出す可能性もあるって聞きましたけど……」





「…………そう、なんだ。」



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