あやめ【短編】
閉ざされていた記憶の箱……






私は…



「思い出した?」



仰向けになった私を眺めるように立ち尽くす優作。


「…!!!」



私は起き上がると後退りをした。





「…そんなに怯えなくてもいいのに。」


優作は壁にもたれ掛かるとふっと微笑んだ。

でも目は笑っていない。








「あ、あなたが殺したの…?」


私は目をあの男が倒れていた場所へと目を向ける。




優作は黙り込むと、椿の花を枝からもぎ取った。


「…僕の親はね、昔離婚したんだ。」


優作は赤い花びらを一枚とる。


「それからは親父との生活だった。でも親父は面倒になってまだ小さい俺を捨てた。…俺は施設に入って暮らしてたんだよ。」



意外な事を知り、私は落ち着いて話を聞いた。



「俺は親父なんかいらなかった。でも…母さんは優しかったから…もう一度逢いたいと思ってた。」




優作が花びらをちぎる度にヒラヒラと地面に散る。


優作の寂しい表情が目に焼き付いた。



「4年後かな。母さんに会えることになったんだ。電話の向こうで母さん…嬉しそうな声だして…次の日に会いに行くって。でも………」











「でも………?」







「事故で死んだ。」











…………え…………






花びらが無くなると、優作はバラバラになった花の残骸を捨てる。



「飲酒運転だった。あの男が殺したんだ。」



あの…男…


小学校教師が…?




「でもあの男は大した罪も背負うことなく普通に暮らしてた。…俺はやっと会える母さんに………」








優作が4年ぶりに再開した母親の姿は、真っ白で声に答えることもできない…棺の中…






私は優作を見れなくて空に舞う椿の花を目で追う。









「だから…殺したの?」
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