あやめ【短編】
涙を溜めて言うと、優作は優しく微笑んだ。


「よかった…彩芽は俺との約束守ってくれるんだね。」



そう言うと、優作は手を引いて歩き出した。

辺りはもう暗い。


遠くで犬が鳴いていた。



「優作が見た…その猫、私の猫でルウっていうの。私も捜してあの場所に言ったんだ。…結局、見つからなかったけど…」


寂しい表情で口にした私を、優作は黙って頷いた。


それは何だか優しくて、時々不安になる。




消えていた記憶から優作は私にとって大切な人なんだと気付くことができた。




嬉しいのに…


優作はまたどこかへ行ってしまいそうで…








「彩芽、ついたよ。」


気付けばもう家の前だった。


優作は手を放すと軽く微笑む。




「…ばいばい。」



「………っ」



どうしてそんなに悲しい顔をするの?


「優作…また…会いにきて!ううん。私が会いに行くから……。」


お願いだから。





頷いて……







「……うん。」





優作が返事をくれると、私はほっとした。





その日は、それで終わった。




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