あやめ【短編】
「東山はここから遠いわよ。バスの時間がなくなる前に行きなさい。」


美津枝はフイッと顔を背ける。


「美津枝さん……」



「早く行きなさいよ。」





私はくるりと背を向けて走り出すと、一度立ち止まって美津枝の方へ振り返った。



「美津枝さん!!優作はきっと美津枝さんのことを大切に想ってます!!美津枝さんが今まで優作の側にいてあげた分、優作はきっと…ずっと救われていたと思います!!」


美津枝は顔を背けたまま…




私は頭を下げると、また走り出した。












一人残された美津枝は涙を零す。




夕日を見上げて、あのころの幸せそうに笑う優作の顔を思い出していた。




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