あやめ【短編】
「優作くん、昨日ここに来たのよ。」


え!?


「来たって…本当ですか?」


「何年ぶりだったかしら…中学校を卒業してから出て行ってしまったから…9年ぶりだったわね。もうすっかり大人になっちゃって…」


「…優作は何て?」





「“俺を育ててくれてありがとうございました。”って。…あの子…よく笑う明るい子だったのに…何だか寂しい顔しててね、心配なのよ!昔っから自分で溜め込んじゃう子だったし…」



おばさんは昔を思い出すように語り出す。



昔から頭が良かったこと。


運動会やプールはサボりがちだったこと。



女の子からの告白が絶えなくて困ったこと……






「彩芽ちゃんは…優作くんのことが好きなのね?」



おばさんは私の顔を除き込み、そう言った。


その優しい表情に思わず頷く。


「…でも…何を考えているのかわからないんです…。凄く優しいのに時々悲しい顔してて…」


今なんてもう…会えないかもしれない。



私は涙で滲む目を手でこすると、おばさんは優しく私の手を握った。


「おばさん…嬉しいわ。」


「…え?」



「優作くんをこんなに想ってくれる子がいて…ここの子供達もだけれど親がいなかった子はね、温かい愛情を知ることがなかったから…愛情と上手く向き合えないのよ。でもその愛情が本当に大切だと気付いたとき、自分は一人じゃないと思えるのよ。」





頭の中に入ってくる優しい言葉…


私は静かに涙を流した。





「…優作も?」



「ええ。誰もがそうよ。彩芽ちゃん…優作くんをお願いね。」

















「……はい…っ」






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