あやめ【短編】
最終章 変わらない気持ち
――――――…………施設から離れたころには、もううっすらと空が明るくなっていた。

私はおばさんから貰った西区東山のアパートマンションの地図を片手に長い田んぼの道を歩き続けた。





ふいに私は携帯の電源を入れたとき、その着信履歴に驚いた。



お母さんやお父さん、友達……





唯斗さん………







私はしばらく画面を見ていると、急に電話がなった。



「…唯斗さん……」





着信は唯斗さん。



私は迷うことなく静かに電話に出た。




「……はい。」





『…彩芽ちゃん!?彩芽ちゃんだよね!?今どこにいるんだ!?お父さんとお母さんに今知らせ…』


「待って。唯斗さん。」



私は、小さく強い声で唯斗さんを止める。



「……このまま聞いて?」





電話の向こうで唯斗さんの心配そうな表情が見えた。



…でも、伝えなきゃ。





「…唯斗さん。私ね、ずっと唯斗さんに憧れてたよ。優しくて勉強が出来て…」


『…彩芽ちゃん?』



「…でも唯斗さんはいつまでも私の大切なお兄さんだよ。」









『………………。』




ごめんね…








大好きだったよ。













「バイバイ。“お兄さん”。」





















震える手で、電源ボタンを押した。









どうしても涙が止まらなかった。




大切な人達を…私は手放したのだから。







< 58 / 66 >

この作品をシェア

pagetop