あやめ【短編】
ダメだな…


私。






502号室の部屋の前で、私は何度もドアノブに手をかけた。



でも、すぐに怖気付いてしまう。








どうして?






もしかして…怖いの?





優作は人を殺したから?








目を閉じると、血だまりの中にたたずんでいる優作の姿が浮かんだ。












『僕ね、殺しちゃった…』





小さく、彼は呟く。












優作……っ



私は俯く。











私は青ざめた顔で、もう一度小さな優作を見た。






……あ………








小さな子供の優作は





涙を流していた。







大きな瞳から何度も何度も、









『ごめんね…彩芽…』








私…バカだ…







どうして一瞬でも怖がったりしたの?








優作はこんなにも助けてほしいって叫んでいたのに










私は、鍵が開いていると確認すると静かに扉を開いて中に入っていった。




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