あやめ【短編】
「彩芽…なのか…?」


虚ろな優作の目が私を見る。



「優作……逢いたかった…」








私は靴を履いたまま、優作の胸へと飛び込んだ。



「優作…!」







「あや…」


優作は彩芽の腰に手を回すのをやめると、目をぎゅっと閉じた。





「離せ……!!」



ドンッと勢いよく押されると、彩芽は畳の上に倒れ込んだ。




「ゆうさ……く?」



「なんで…何で来たんだよ!?俺が何のためにお前を離して…っ!……嫌なんだよ!!!」







俺は……っ




こんなに赤く染めた手で…



彼女に触れたら…







「俺は…人を殺したんだ!!!」








優作は頭を抱え込んでその場に崩れる。









彩芽は立ち上がると、優作の方へと近付いた。









「…!」


彩芽は優作の手を優しく包み込む。








「……ねぇ、優作?あの夏のこと…覚えてる?」



「…………」



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