あやめ【短編】
次の日、雪が降った後の景色は全てが真っ白だった。



「お母さん、今日ってまだベルのお散歩行ってないよね?」


私は愛犬のベルの首輪に綱を付けると、ジャンパーを羽織る。


「まだよ。行ってくれるの?」


「うん。行ってきまーす。」


扉を開けて外へ出ると、朝日を浴びた雪がキラキラと光っていた。

「うわぁ…綺麗。」


ベルはいつも以上にはしゃいでいた。


誰もまだ通っていないのか、道路は足跡が一つもない。


「二人で独り占めだよー。ベル!」







ザク…ザク…


雪を踏みつける度、鈍い音が響いた。



下を向いて歩いていると、足跡が一つ多いことに気付いた。






「あれ…?足跡…」



私のより遥かに大きい大人のサイズだ。



その足跡は先の道が見えないずっと向こうへ続いている。









…誰か歩いたんだ。




「か、帰ろっか…」


ベルを引っ張ろうとした瞬間、ベルはその足跡の匂いを嗅いでいた。


そのままグイグイと前へ突き進むベルを私は力一杯引っ張る。


「もぉ!!帰るんだよー!!ベル!」



しかしベルは急に走り出した。



「きゃあっ!」


転んでしまった私は手に持っていた綱を放してしまった。



「…あ…っ待ってベル!!」





私の声も虚しく、ベルはその足跡の先に走っていってしまった。
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