【完】無知な彼女の周り
いつも通りの日が過ぎ、放課後になった。みんなが帰りだす中、私はもう少し居ようと、席に座ったまま、みんなが帰っていくのをただぼーっと眺めていた。
「あれ?遥花ちゃん帰らないの?」
「うん。もうちょっといようと思って」
「ふーん」
可奈子ちゃんが、帰らない私を気になったのか話しかけてくれた。
「可奈子ちゃん、がんばってね」
これから、物語が続いていくということは、いろいろつらいこともあるだろう。でも、可奈子ちゃんなら逃げない。誰も逃げる主人公なんて居ないんだから。
「遥花ちゃん、ずっと言おうと思ってたんだけど」
可奈子ちゃんが真剣な顔で、言いにくそうに、
「物語の主人公は遥花ちゃんだよ」
その言葉は衝撃すぎて私の思考は完全に停止した。
違う。私じゃない。私なんかじゃ役不足すぎる。
「な、なにいってんの。第一、物語ってなんのよ」
そうだよ。彼女が物語の存在を知るわけがない。
「それは秘密よ。でも、主人公は遥花ちゃんだよ。あなたみたいに可愛くて、鈍いなんて、最高に魅力的じゃない!王子様みんな、あなたのことが大好きなんだから」
あぁ、そうか。この子は勘違いをしてるんだ。彼女の目から見たら、私が主人公に見えたんだ。ごめん、私、でしゃばりすぎたみたいね。可奈子ちゃんを勘違いされるなんて
「ごめん。私、時間だから帰るね」
「う、うん」
その場に居られなかった。
勘違いのせいで、王子様への好意をあきらめていたなら、それは私がいたせいだ。
でも、その勘違いも今日まで。だから、教室に出る前に彼女に
「可奈子ちゃん、あなたは絶対幸せになれるから」
「ありがとう」
そのときの可奈子ちゃんの笑顔はホントに優しくて、やっぱり彼女こそが主人公なのだと思った。
可奈子ちゃんは何も知らなくていい。無知なままでいい。
わたしが周りで足掻いていただけなんだから。
だからもう、これからは邪魔な私が消えたのだから、なにも気にしないで、物語を進めてくれればいいんだ。